平凡すぎて恐縮ではあるが、自分の長らくの趣味の一つが映画や小説である。
あらゆるジャンルを読むが、よく手にとるのがノンフィクション、或いは事実を元にしたサクセスストーリー的なものである。
中でも特に好きなのが、弱小な立場にある主人公がデータや思考を駆使して、理詰めで勝つ、逆転するというものだ。
ぱっと思いつくのが「マネーボール」という映画。
映画も原作小説も何度も見返した。
個人の圧倒的な才能やドラマチックな奇跡ではなく、地道な分析とロジックを積み重ねて勝つべくして勝つというストーリーに興奮するし、憧れる。
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話は全く変わるが、マーク・ジェフリー著「データ・ドリブン・マーケティング」という本を読んだ。
元々は自身が運営するWEBサービスのマーケティングのための参考に、買ったものだったが、半年ぐらい積読状態になっていた…。
が、先日の出張時、現地支店のマーケティングの運用にかなり疑問な点があったのもあり、読んでみることにした。
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あらためて読み進めてみると、これが事例も豊富で納得できることも多く、一気に読み進めてしまった。
内容もWEBマーケティングに関わるというよりは、多くのデータが活用できるようになった現代のマーケティングにおいて普遍的な内容か大半である。
自分としてここは面白いと思ったのが下記である。
①多くの企業においてマーケティングは「結果」「効果」ではなく「実施したかどうか」で評価されている。なぜならマーケティングはクリエイティブなもので、効果検証ができないと思われているから
②マーケティングの企画の最初期の段階で、効果測定の指標を設定しなければならない。決めずに実施後に効果を測定しようとしても、難易度が高い上に曖昧な分析しかできない
③どんなに細かくデータを取れる時代であっても、結局アンケートやグループインタビューのようなユーザー調査が効果検証の土台になる。マイクロソフト、フィリップスのような最先端の巨大企業であっても。
④ブランディングのような効果が定量的・財務的に検証しづらい施策であっても、対照実験など、測定する方法はある。というより測れるような施策設計をしなければいけない。
⑤マーケティングは「間違っている状態」を「大体合っている状態」に修正すれば大きな効果が出る。だから定性的なユーザー情報も十分価値がある。(但しサンプル数には注意が必要)
⑥マーケティングの最適化を行うために、マーケティング予算の10%を使ってでも、測定と分析を行うべき。
⑦顧客の満足度を明確に引き出すのは「あなたはこの商品を友人に勧めたいと思いますか?」という質問。これは調査の最初で聞かれるべき質問。
⑧全ての顧客が平等なわけではない。往々にして売上の80%を上位20%の顧客が生み出しているようなことがある。データ分析により顧客をセグメントし、施策に傾斜をつけることは当然である。
⑨マーケティング活動はデータ収集による途中経過に応じて軌道修正されることを見越して設計しておくべき。
ものすごく簡単にまとめると、
「ちゃんとマーケやるために多少カネかけてもデータ拾えよ!効果検証しろよ!そのために始めからどういうデータで効果検証するか考えとけよ!」
ということだろうか。
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以前の記事でも書いたが、現地支店のマーケティング施策について一番疑問に感じていたのが、「効果測定をほとんどしていない」ということである。
良くて依頼した広告代理店からの報告書が出て来るだけだった。
正直このような代理店作成のレポートだけでは全く不十分である。
代理店の立場からすれば、「この施策自体意味があったのか、効果があったのか」という最も重要な問いに対して、「No」というわけがないからだ。
実際に自分も詳細に目を通したが、数十枚に渡るレポートの中で、「結局売れたの?」という疑問に対する回答と言える内容は記載されていなかった。
そしてこれが実際に売上を担う営業部門から強烈な不満と不信を買っていた。
マーケティング部は膨大な予算を投じて効果のない施策をしている。効果測定についての報告もない。なんなんだあいつらは、と。
確かにごもっともな指摘である。
私としても同意見だったので、マーケティングの責任者にあらためて話を聞いてみることにした。
某消費財メーカーでマーケティング担当をしていたということで、「マーケティングのプロ」として大いに期待されての入社であったが、上記の効果測定がないことに対する彼の説明はこうだ。
「これはブランディング施策だから効果を測定することは難しい」
ではユーザー調査をすればいいではないかという提案に対し、
「それはマンパワーがかかるしリソースが足りない」
ではどうやって効果測定をするのかと問えば…
色々と言い訳をされたがもはや覚えていない。
……
おそらく彼は前職でマーケティングを担当していたと言っても、単に運用を任されていただけで、施策から携わったことが無かったのかもしれない。
あるいは、会社自体が上記の本でいう所の、「マーケティングは「結果」「効果」ではなく「実施したかどうか」で評価」する文化だったのかもしれない。
今までの我々がそうだったように。
マーケティングは現地のPR会社に任せて、どこで誰に何をやったか、という数字も出てこない。
3か月後にインプレッションの数字だけレポートを送ってきて、そこにそれぞれいくらかかったか、ということすらわからない。
これではマーケティングの最適化などやりようもない。